馳走
「ラーメン」
僕には、よくラーメンを賭けて争う友達がいる。
どっちが理科のテストでいい点を取れるか
どっちが先に昼休みのサッカーで点を決めるか
どっちが先に女の子と手を繋ぐか
どっちが先に童貞を捨てるか
世の中の男子の一般論は知らない。
けど、僕とそいつの間における賭け事なんていつだって中学生のままだった
勝っても負けてもそいつと食べるラーメンは同じ味がした。豚骨の、太麺の、チェーン店。
最低に平凡で変わらない、歴代のバイトさんたちが受け継いで来た僕らの馳走。
今、
僕は、21年間慣れ親しんだ、たった一つの故郷を旅立つ時期にいる。先日、父親がノミで表札を外した。
21年間、そこにあることが普通だった表札。
5分で取れた。
ポストの横の表札は、今はない。
この町を巣立ったら負け
そんなこと賭けるアイデアなんて浮かばないくらいに子供の僕らにはかけ離れていた。
子供のまんま大人になって、やっと気付いた。
それは、、平凡のありがたみ。
今日も蒸し暑い。
冷やし中華が食べたい。昼も夜も。
でも、
旅立つ前に一度くらいは、
あの不味いラーメンを食べておきたい。
くだらない、しょうもない小さな何かを賭けながら、あのご馳走を。